自然災害や事故、そのほかさまざまな出来事によって、トラウマを抱えてしまうことがあります。それがPTSDです。本人はとても苦しんでいるのですが、家族や周囲の人たちがその苦しみを理解することが難しく、対応に困ることもあります。
自分の身近にいる人がPTSDで苦しんでいるときの接し方と、そもそもどのような症状で苦しんでいるのかを、しっかり確認しておきましょう。
PTSDとは
それではまず、PTSDについてその定義と症状を見ていきます。
PTSDの定義とポイント
PTSDとは、心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder)のことです。強い心的外傷(トラウマ)になるようなできごと(自分が危うく死んだり、重症を負うようなできごと)に曝されたことにより、心理的・身体的に特有な症状が生じることをいいます。
また、PTSDを理解するうえで重要なポイントは、
- 誰にでも起こりうる
- 症状が長引く(1か月以上)
の2点です。自分が危うく死にそうになるできごとに遭遇することはまれですが、もしそのようなできごとに曝されれば、誰しもがPTSDになることはあり得ます。もちろん個人差はあって当然ですが、PTSDは危機的な状況に対して人間が過剰に反応しているものなので、人間は誰しもPTSDになり得るのです。
また、強い心的外傷(トラウマ)に曝された直後は、誰でもPTSDのような症状は出ます。しかし、時間経過とともに症状は自然に軽減されるのが普通です。ところが、それら症状が1か月以上続き長引くと、PTSDという診断がされます。こうなると、時間経過とともに症状が自然に軽減されるのは難しくなります。
PTSDが生じる「トラウマ体験」
それでは、PTSDの定義として挙げられている「強い心的外傷(トラウマ)になるようなできごと)」とは、どのようなものか確認します。つまり、自分が危うく死ぬような、あるいは重症を負うような体験のことで、よく「トラウマ体験」と呼びます。例えば、
- 自然災害(地震、津波、水害など)
- 犯罪被害(性犯罪、暴行・障害など)
- 交通事故
- 虐待、DV
といったものです。いつ、どこで遭遇するかわからないものも多く、誰にでも起こりうるものですね。
PTSDの症状
次に、PTSDの症状を確認していきます。症状は、大きく4つに分けられます。
再体験(侵入症状)
1つ目の症状は、再体験(侵入症状)です。つまり、
- トラウマ体験を繰り返し何度も思い出す
- トラウマ体験の夢を見る
- 実際にトラウマ体験がそのときその場で起こっているように感じたり行動したりする
といったものです。まとめると、トラウマ体験をリアルに再体験しているように感じる症状です。なかなか体験してみないと想像がつきにくいものですね。しかし、これらは自分でコントロールができず、思い出すことを止められないので、症状に苦しむ人にとってはとてもやっかいなものなのです。
回避
2つ目の症状は、回避です。つまり、
- トラウマ体験に関する場所、人、活動、感情を避ける
- それらを避けようと努力する
といったことです。例えば、
- 自転車に乗っているときにトラックに引かれたトラウマ体験をすると、
その事故現場、自転車を避ける - 見知らぬ男性から殴る蹴るといった暴行を受けると、
暴行を受けた場所、男性、暴行シーンがある映画やドラマを避ける
といったことがあります。トラウマ体験を想起するものは避けがちになり、避ければ避けるほど、避けるものはどんどん広範囲に広がっていく傾向にあります。そうすると、回避するものが増えすぎて、電車に乗れなくなったり、人と話をすることも難しくて、どんどん行動範囲が狭くなり、孤立してしまうこともあります。
過覚醒症状
3つ目の症状は、過覚醒症状です。つまり、覚醒しすぎる、というような意味ですね。つまり、
- 苛立ちや激しい怒りを示す
- 集中困難
- 入眠・睡眠困難
といったものです。これは、トラウマ体験に曝された際の、心臓がドキドキしたり、目の瞳孔が開いたり、血流量が増えて、危機的な状況に闘おうという人間生来の反応が、トラウマ体験後も継続しているという状態です。
本来は危機的な状況はもう過ぎ去っていて、リラックスしてもいいのにリラックスできない状態になってしまっているのです。そのせいで、夜は眠りづらかったり、集中できなかったりします。
認知や気分の否定的変化
4つ目の症状は、認知や気分の否定的変化です。これは、
- トラウマ体験の一部を思い出せない
- 自分や他者、世界に対して否定的な信念や感情を持ち続ける
といったことです。あまりにも辛いできごとは、思い出すことのないように心が記憶に蓋をします。そうすることで、なんとか自分を保てるという、安全装置のようなものです。そして、自分に対する否定的な感情というのは例えば、
- 事故に遭ったのは自分の不注意のせいだ
- あんな時間に人通りのないところに行った自分が悪いんだ
と、自責の念にかられたりすることです。事実はそうでないとしても、自分を責めてしまいます。また、世界、世の中に対しても否定的な見方になり、「世の中は怖いことばかりだ」と信じ込んでしまうこともあります。そうなると、ますます外出できなくなってしまいます。
家族・周囲の人の接し方
PTSDの人たちが回復するには、自分ひとりでは難しいです。家族や周囲の人の協力があってこそ回復に向けて進むことができます。
話をじっくり聞く
PTSDに苦しむ人の話をじっくりと聞いてあげましょう。とはいえ、無理に話を聞き出そうとすることは逆効果です。PTSDに苦しむ人にとっては、「何が起こったのか」を説明して話すだけでもとてもつらいもので、それ自体が再体験の症状となります。しかし、話せないままでは前に進むことができないのも事実です。
少しずつ話せるようになってきたら、その話をじっくりと聞いてあげましょう。もしかしたら、全て自分のせいにしてしまうなど、事実と異なることを話すかもしれません。そのときは、話を全面的に否定するのではなく、話を聞いて感じたことを優しく伝え返してみるのがいいでしょう。
安心感を得られる場所になる
PTSDに苦しむ人は、世の中が安全でないと思い込んでいることが多いです。そのため、過覚醒になり、落ち着かず、眠れなくなったり、苛立ったりします。まずは、安心できる場所が必要なのです。ですから、家族や身近な周囲の人たちは、PTSDに苦しむ人のそばにいて、安心感を得られるような関わりを心がけることが大事です。
まとめ
PTSDの症状と、PTSDに苦しむ人への接し方について見てきました。PTSDとは、
- トラウマ体験(災害や犯罪被害、事故など、自分が危うく死ぬようなできごと)に
曝されたことにより、心理的・身体的に特有な症状が生じること
でした。そして、PTSDの症状には、
- 再体験(侵入症状)
- 回避
- 過覚醒症状
- 認知や気分の否定的変化
の4つがありました。そして、PTSDに苦しむ人の家族や周囲の人の接し方として、
- 本人が話せるようになったら、じっくりと話を聞く
- 本人が安心感を与えられるような関わりをする
ということが大事でした。PTSDは、危機的な状況が過ぎ去っても、まるでまだ危機的な状況にあるかのように感じたり振る舞ったりしてしまう症状です。周囲の人の支えが必要ですが、心理療法等を使いながら立ち向かっていくという本人の努力も、もちろん必要になってきます。