悲しみ乗り越える…「喪の作業」とは?そのプロセスを解説!

私たちは大事なものを失ったとき、悲しみに明け暮れます。時として、どう乗り越えていいかもわからないときがあります。その心のプロセスを解明しようとした心理学者がいました。今回は、心理学者が唱えたプロセスも踏まえて、失った悲しみを乗り越える「喪の作業」のプロセスを解説します。

喪の作業とは

喪の作業とは、愛する人を亡くしたときなどの悲しい気持ちを乗り越える過程、心のプロセスのことを言います。モーニングワーク(Mourning Work)とも言われます。

大事なものを失う悲しみ

我々が喪の作業を行うのは、誰かが亡くなって悲しいときだけではありません。心理学の用語では「対象喪失」と言いますが、

  • 親しい人と別れる
  • 住み慣れた環境を離れる
  • 所有していた物を失う

など、愛着のあったものを失う「対象喪失」があったときに、喪の作業を行います。大事なものを失うと悲しいですよね。それは、自分の健康や、自分の理想なども同じです。それに打ちのめされるだけでなく、受け入れ乗り越えようとします。

「喪の作業」の心理学

「喪の作業」は、過去に様々な心理学者によって研究されてきています。有名な心理学者であるフロイトは、この「喪の作業」の概念を生み出しました。それは、喪失した対象から離れていく作業であると考えられました。

その際、悲しみはもちろんありますが、それだけでなく罪悪感や憎しみ、悔いなど、様々な感情が入り混じっているのです。その過程を順に見ていきます。

プロセス

「喪の作業」のプロセスを見ていきましょう。

ボウルビィの4段階

フロイトの喪の作業は、様々な心理学者に影響を与えました。例えば、ボウルビィがそのうちの一人です。ボウルビィは、人は喪失体験をした後、4つの心理過程を経ると考えました。それが、

  • 情緒危機

    抗議

    断念

    離脱

です。「情緒危機」の段階とは、大切なものを失ったという激しい衝撃に対し、ショックを受ける段階です。いわゆるストレス状態です。現実を受けいられずに呆然としたり、無感情、無感覚になったりし、情緒不安定になります。

抗議」の段階では、喪失したという事実を認められません。失った対象を探し求めたり、あたかもまだ存在するようにふるまったりします。「もうなくなったんだよ」という事実を認めさせようとするものに対し、抗議している状態です。

断念」の段階にくると、喪失したという事実を認め、抵抗することを断念します。激しく絶望し、無気力になることもあります。失意、抑うつ、不安、怒りなどの気持ちに支配され、人との接触を避けたり、ひきこもりがちになります。

離脱」の段階では、喪失した対象に対して、徐々に穏やかな感情を抱くようになる状態。事実を少しずつ受け入れ始め、立ち直る努力をし始めます。

キューブラー・ロスの5段階

キューブラ-・ロスは、喪の作業を5段階で示しています。キューブラ-・ロスは死の宣告を受けた患者にインタビューを行い、死を受容するに至るまでのプロセスを示しました。つまり、自分の命を喪失する体験を、どのように受け入れるかというプロセスですね。5段階は次の通りです。

  • 否認

    怒り

    取り引き

    抑うつ

    受容

人は、死の宣告を受けると、驚き不信感を持つようです。そしてまず、自分が命の危機にあるという事実を「否認」します。頭ではわかろうとしても、感情的に否認している段階です。

そして、その後、自分の命の危機という事実を認識できたあとは、「怒り」の段階へ移り、怒りの感情に襲われます。「なぜ自分が死ななければならないのか」と、周囲に当たり散らすこともあります。

その次の段階「取り引き」が、おもしろいです。どうしても自分が死ぬのだという事実を認め始めると、特に信仰心がなくても、神や仏にすがり「なんでもするから、死の現実を避けられないか」と取り引きをします。

そして、それでもなお、死を免れないとわかると、「抑うつ」的、憂鬱な気分になります。頭で理解していた死が、感情的にも理解できるようになり、絶望に打ちひしがれ、死を回避できないことを悟ります。

そして最終的には、死を「受容」できる段階に至ります。個人差はあるものの、自分なりの生命感や宇宙感を形成し、人生の終わりを静かに見つめることができて、心に平穏が訪れる段階です。

死を受け入れるのはなかなか簡単ではありませんね。しかしいろんな過程を経て、最後には心に平穏が訪れるのでしょう。キューブラ-・ロスは死の宣告の受容についての研究ですが、これはどんな対象喪失にも当てはめて考えることができると思います。

実際の喪の作業

これまで、ボウルビィとキューブラ-・ロスの喪の作業のプロセスについて見てきましたが、実際にこの通りに皆が喪失を受容できるのかというと、決してそうではありません。もちろん個人差はあるでしょうし、必ずしもこのプロセス通りではなくて、順番が入れ替わったり、同時に何段階ものプロセスを消化していくことになる場合もあるでしょう。

また、喪の作業がスムーズに進まない場合もあります。何十年も前に亡くなった人のことを何かのきっかけに思い出し、再び喪の作業のプロセスを繰り返したり、あるいはそのプロセスそのものに何年も時間がかかり、「抑うつ」の段階で、うつ病になる人もいます

また、何も死ばかりが喪失体験ではありません。大切なもの、愛着のある対象を失うことでプロセスが始まります。老いは、「自分の若さ」を失うことですし、退職は時として「仕事のキャリア」や「尊敬」や「居場所」を失うことです。私たちの生活に対象喪失は溢れていて、それらを日々処理しながら、私たちは生活しているのですね。

まとめ

喪の作業のプロセスを見てきました。喪の作業とは、

  • 愛着のあるものや愛する人を亡くしたときなどの悲しい気持ちを乗り越える心のプロセス

でした。喪の作業のプロセスはこれまでにさまざまな心理学者に研究されており、

  • ボウルビィの喪の作業は、
    情緒危機→抗議→断念→離脱
  • キューブラ-・ロスの喪の作業は、
    否認→怒り→取り引き→抑うつ→受容

というプロセスを経ていました。悲しい体験を乗り越えるには、それなりに時間もかかって当然です。目を背けていても前には進めません。忘れよう、否定しようと思っても、事実は変わりません。心理学者の喪の作業のプロセスが示しているのは、少しずつではあっても、人間は悲しい事実を受け入れ、前に進めるということです。

その体験が、私達を強くすると思いませんか。もし皆さんが、あるいは皆さんの身近な人が、今、対象喪失の悲しみの中にいるのであれば、自分がどの段階にいるのか、今後どんなプロセスを経るのか、それを知っておくだけでも、気持ちは少し楽になるかもしれません。

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